GAZOU1 (3)瀬戸内海の海の幸と中国山地の山の幸に恵まれた岡山は、あたかも美味しさの玉手箱を持っていると思います。
街を歩けば、郷土料理のお店で、鰆の文字が目に飛び込んでくるくらい、岡山の人は、鰆(小型のものはサゴシと呼ばれる)を好んで食べます。
魚偏に春と書き、春を告げる魚として、春が旬のお魚(瀬戸内海では晩春から初夏/産卵期3~5月)ですが、この鰆の語源は、お腹の幅が狭いという意味で狭腹(さはら)とか。
そして、この鰆、実は全国各地で水揚げされ、農林水産省の大海区都道府県振興局別魚種別漁獲量(平成25年概数値)を見ると、漁獲高は福井県が第1位、長崎県が第2位、京都府が第3位と日本海側で全国漁獲高の38.4%を占めますが、全国の漁獲高の約3割が岡山に集まりますから、人口比(約1.5%)※1で考えても、いかに岡山の人が鰆好きかが良く分かると思います。(ちなみに岡山の漁獲高は僅か0.6%)

※鰆が、日本海側で多く獲れることになったわけは、兵庫県立農林水産技術総合センター・水産技術センターのサイトに「サワラの主な分布域である東シナ海の資源量が増大したこと、日本近海の海水温の上昇など海洋環境の変化によって、サワラが東シナ海から日本海に来遊しやすくなったことが考えられる」と記載してあります。
さて岡山市内の秋祭りにだんじりを曳く時に唄われる岡山の伝承民謡 備前太鼓唄(こちゃえ)※2には、鯛・鱧・きすご・蛤が見受けられますが、岡山人の大好物である鰆は海の幸が豊富にあり過ぎて、選から漏れたのでしょうか。

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この他にも岡山のお魚といえば、チヌ(黒鯛)・アカメバル(カサゴ)・ゲタ(イヌノシタ)など沢山ありますが、ママ(御飯)をカリ(借り)に行くほどおいしいことが、その名の由来となったママカリ(サッパ)の酢漬けも岡山の郷土料理の代表ですよね。
今日のお話は、この瀬戸内海の海の幸をふんだんに盛り込んだ岡山の郷土料理「ばらずし」のお話です。

おかやまばら寿し
岡山では、お祭のときだけではなく、お祝い事があるときに、各家庭で作られているものですが、特徴として下味をつけた野菜に、酢じめにしたお魚が使われます。
その起源は江戸時代、名君との誉れが高かった池田光政公の治世に遡ります。GAZOU13
光政公は陽明学者・熊沢蕃山を招聘し、寛永18年(1641)に、全国初となる藩校・花畠教場を開校、その後寛文10年(1670)には、同じく全国初となる庶民のための学校として閑谷学校を創建したり、津田永忠に百間川(旭川放水路)による治水対策を行わせるなど教育の充実と質素倹約を旨として「備前風」といわれる政治姿勢を確立したとされます。
そして、この「質素倹約」こそが、「岡山ばらずし」の起源につながってきます。

ちなみに備前少将光政公儉約辨(備藩令條記)※3には、「君子之儉約は無欲を本とし慈悲を行者也 儉約を行にはあらず、儉約を行時は儉約を苦也、苦む則利心也、君子は人民の為の財有て自の為の財なし、衣食器用凡天下之人之生をとくる所のもの也、自為の實有て人の為の實なし、仁義是なり、・・・」と書かれてありますが、殿さま自ら倹約を推し進め、民のために尽くせよと述べているのですから、家臣・領民は従わざるを得ませんよね。
この光政公の質素倹約で、「食膳は一汁一菜」とされたことから、豊かな町人が、お魚・お野菜などを混ぜ合わせれば、ひとつのメニュー(一菜)として、お吸い物を添えたのが始まりと言われます。
機転の利いたようでもあり、何だか一休さんの頓智噺のようですよね。

ところで、岡山では「ばらずし」ですが、岡山以外では、いわゆる「ちらしずし」が存在します。この「ばらずし」と「ちらしずし」は単に呼び名の違いではないのです。
先ほどお話しましたように、「ばらずし」は、酢飯の中に酢でしめたお魚(鰆・ママカリなど)、焼いたアナゴ、海老、イカなど海の幸に山の幸をふんだんに盛り込み、彩りも鮮やかな岡山のお祝いの席には無くてはならないお料理のひとGAZOU3 (2)つと言われます。
ちなみにお祝いとして重箱でお持ちする場合、具材を重箱の底に敷き詰めて、酢飯を載せますが、先様が頂くときに重箱をひっくり返したときに豪勢な具材がお目見えするのも、おもてなしの心遣いでしょうか。
これに対して、「ちらしずし」は刺身や握り寿司の種となる生魚や玉子焼きなどの具材を、酢飯に散らして作ることから「ちらし」と呼ばれています。
一見して「ちらしずし」が豪華に見えるかも知れませんが、「ばらずし」は、ひとつひとつの美味しさを追求するために具材別に調理し、米どころ岡山の美味しいお米との素敵なコラボレーションともいえる芸術作品なのかも知れません。

※1総務省統計局 人 口 推 計 - 平 成 28 年 5 月 報 -1億2696万人
岡山県毎月流動人口調査(月報 平成28年4月1日現在)1,916,261人
※2備前太鼓歌(こちゃえ) 
備前岡山 西大寺町 大火事に
今屋が火元で五十五軒 コチャ
今屋が火元で五十五軒 コチャエ コチャエ
京橋へんの魚売り 鯛や鯛
はもや きすごや 蛤や コチャ
はもや きすごや 蛤や コチャエ コチャエ
※3武士道家訓集 有馬祐政, 秋山梧庵 編 (博文館, 1906)